タマラのロマンス小説
DJは甘いフレーバーで
DJは甘いフレーバーで1
「今日もお送りする公開ラジオ。DJはダイアナ・ジェームズ。Dはダイナマイト。Jはジョークの略です」
赤い長めのセーターと足にぴったりと張り付いたようなスリムジーンズをはいた私は、ガラスの向こうにいる観客に向かって微笑んだ。私の担当するラジオ番組の放送時間は月曜日から金曜日の午後一時から午後四時までだ。
このラジオ番組は視聴者からリクエストされた音楽と、悩み相談の葉書から成り立っている。最大の売りはロンドンのカナリーワーフ地区の高層ビルを所有しているTV局が主催しているラジオ番組であることと、ビルの一階で、公開ラジオ形式で放送にしていること、そして私のダイナマイト級の毒舌だった。
私のDJは幸い、独特の高音でいてハスキーに響き、誰が聞いても良く分かる特徴を持っている声のおかげで評判が良かった。
次々と音楽を放送している間に、朝選んだ葉書をもう一回読み直した。そして葉書の住所が何気なく目につき、心の中で無意識に住所を読むと、葉書を出した女性の住所が自分のフラットの近くだと知った。いいえ、近いなんてものではない。これはバス停を降りてすぐの大きな家だわ。毎日、帰り道にここの家の前を通るので間違いない。
音楽の放送が終わると、手元のスイッチでマイクの音量を出して、葉書を読み始めた。
「続いて突撃、DJに相談のコーナーです。私は現在二十四歳。悩みは太っていて、太るたびに彼から別れを切りだされることですが、どうすればいいのですか?」
何度読んでも許せない内容だわ。毒舌を発揮するチャンスよ。早速、声をあげて非難した。
「ペンネーム、りんごちゃん!そんな彼とは即座に別れなさい。悔しいからダイエットをして最高に美しい姿になって、貴女から彼を捨てるのよ」
自分の過去を思い出し、テンションは更に上がった。
「いい?彼をいつまでも素敵な男性と思ってはだめ。素敵な男性なんて実際には絶滅前の希少動物なの。そしてその希少動物を見つけたら最後、大抵は他人のものだったりするのよ」
放送局の外で拍手をする観客たちに微笑み、話を締めくくった。
「私が昔、太っていたことを何回もラジオで話したわね。そう、私も同じ体験をしたの。そして今はラジオのDJをしている。りんごちゃん、私は貴女の味方よ。でも私のDJを聞きすぎると皆、中毒になって、りんごちゃんも毒りんごになるかも知れないわ」
ここでおなじみの失笑が入り混じった観客の声が入った。
「それではまた明日」
本日最後の曲を流すと、いつものようにテレビ局一階の公開ラジオが見える分厚いガラスの仕切りの外の歩道に群がる観客に微笑みながら手を振り、ラジオ放送終了とばかりに壁の内側から自動シャッターが下ろされた。この後、スタッフに挨拶して私の一日の仕事が終わる。
「ダイアナ、二十八歳、男嫌いか・・・・・・」
長年の友人であるプロデューサーのサムに声を掛けられると、私はにっこりと微笑んだ。
「貴方は男が好きでしょう」
サムに輝くばかりの微笑みを見せた。彼は私の愛するハンサムなゲイの友人だ。彼にはいつも、私のパーティーに出席する時のパートナー役をしてもらっている。
彼は早速、日課とばかりに私の心配をした。
「ダイアナ、金色の髪に水色の湖のような瞳、陶器のような肌、優しい心に一途な性質。それだけ恵まれた条件が揃っているのに、いつまでも独身だなんておかしいよ」
「いいえ、私が男性を嫌っているのは知っているでしょう。サム、貴方のように優しい人がゲイではなく私を愛しているのなら、考えてもいいわ」
彼は世間にもカミングアウトし、彼と同じブラウンの髪にブラウンの瞳の素敵な恋人、ジークがいる。私はジークに許可を得て、毎回、彼とパーティーに出かけるのだ。
「ダイアナ、少し痩せすぎだよ」
「少し痩せているくらいが丁度いいのよ」
「そうは思わないよ。君は過去の体型にとらわれすぎているように思える」
友人のいつもの忠告に居心地悪そうに腕をさすり、肩までの髪を揺らしながら、悲しげに首を横に振った。
「サム、私の将来の夢を知っているわね。庭のある家に一人で住み、犬や猫を飼うの」
「ダイアナ、ペットは可愛いものだけど、そんな幸せよりもっと別の幸せがあるよ」
「いいえ、そんなものは存在しないわ」
悲しそうな表情を浮かべて背伸びをし、百八十センチの身長の彼の頬に友情の証のキスをしてから、白いコートを着て退社し、テレビ局の向かいに出来た大きなスイーツランドのビルを敵のように、にらんでからバスに乗った。
自宅のフラットの最寄りのバス停に降りると、寒さのあまりに白いコートのポケットの中に手を突っ込んだ。吐く息が白い。もうすぐクリスマスで外はとても寒いわ。こういう寒い日は寂しくて誰かが自分の側にいて欲しくなる。枯れて舞い落ちた葉っぱの上を、音を立てて踏みながら懸命に否定した。いいえ、寂しくなんかない。気のせいよ。
冬の空は暗く、郊外の町を歩きながら、住宅の電気の明かりがことさら明るく見えることもなるべく考えないようにした。
住宅街を歩いていると、女性の叫び声が聞こえ、家族喧嘩をしている家もあると思い安堵した。今、この大きな家から叫び声がしたわ。やっぱり全ての家族が幸せに暮らしているなんてあり得ないのよ。
人の不幸に安堵した自分に嫌悪し、問題の家を何気なく見て凍りついた。
ここはりんごちゃんの家だわ!どうしたの?りんごちゃん。私のDJを聞いて、ダイエットをするまでもなく、早速、彼に別れを告げて、彼のプライドを傷つけたの?
男性は大抵、プライドが傷つくのを一番恐れるわ。即座にカバンの中から携帯電話を取り出して、電源を付けて家の前に立った。もう一回、りんごちゃんの声が聞こえたら、玄関のドアを開けて、りんごちゃんがDVとかに遭っていないかを確認する。
玄関の前に立ち、息を殺して耳を澄ませた。
りんごちゃんの抗議の声が聞こえると同時に私はコートのポケットの中で携帯電話を握りしめて玄関のドアを思い切り開けた。
赤い長めのセーターと足にぴったりと張り付いたようなスリムジーンズをはいた私は、ガラスの向こうにいる観客に向かって微笑んだ。私の担当するラジオ番組の放送時間は月曜日から金曜日の午後一時から午後四時までだ。
このラジオ番組は視聴者からリクエストされた音楽と、悩み相談の葉書から成り立っている。最大の売りはロンドンのカナリーワーフ地区の高層ビルを所有しているTV局が主催しているラジオ番組であることと、ビルの一階で、公開ラジオ形式で放送にしていること、そして私のダイナマイト級の毒舌だった。
私のDJは幸い、独特の高音でいてハスキーに響き、誰が聞いても良く分かる特徴を持っている声のおかげで評判が良かった。
次々と音楽を放送している間に、朝選んだ葉書をもう一回読み直した。そして葉書の住所が何気なく目につき、心の中で無意識に住所を読むと、葉書を出した女性の住所が自分のフラットの近くだと知った。いいえ、近いなんてものではない。これはバス停を降りてすぐの大きな家だわ。毎日、帰り道にここの家の前を通るので間違いない。
音楽の放送が終わると、手元のスイッチでマイクの音量を出して、葉書を読み始めた。
「続いて突撃、DJに相談のコーナーです。私は現在二十四歳。悩みは太っていて、太るたびに彼から別れを切りだされることですが、どうすればいいのですか?」
何度読んでも許せない内容だわ。毒舌を発揮するチャンスよ。早速、声をあげて非難した。
「ペンネーム、りんごちゃん!そんな彼とは即座に別れなさい。悔しいからダイエットをして最高に美しい姿になって、貴女から彼を捨てるのよ」
自分の過去を思い出し、テンションは更に上がった。
「いい?彼をいつまでも素敵な男性と思ってはだめ。素敵な男性なんて実際には絶滅前の希少動物なの。そしてその希少動物を見つけたら最後、大抵は他人のものだったりするのよ」
放送局の外で拍手をする観客たちに微笑み、話を締めくくった。
「私が昔、太っていたことを何回もラジオで話したわね。そう、私も同じ体験をしたの。そして今はラジオのDJをしている。りんごちゃん、私は貴女の味方よ。でも私のDJを聞きすぎると皆、中毒になって、りんごちゃんも毒りんごになるかも知れないわ」
ここでおなじみの失笑が入り混じった観客の声が入った。
「それではまた明日」
本日最後の曲を流すと、いつものようにテレビ局一階の公開ラジオが見える分厚いガラスの仕切りの外の歩道に群がる観客に微笑みながら手を振り、ラジオ放送終了とばかりに壁の内側から自動シャッターが下ろされた。この後、スタッフに挨拶して私の一日の仕事が終わる。
「ダイアナ、二十八歳、男嫌いか・・・・・・」
長年の友人であるプロデューサーのサムに声を掛けられると、私はにっこりと微笑んだ。
「貴方は男が好きでしょう」
サムに輝くばかりの微笑みを見せた。彼は私の愛するハンサムなゲイの友人だ。彼にはいつも、私のパーティーに出席する時のパートナー役をしてもらっている。
彼は早速、日課とばかりに私の心配をした。
「ダイアナ、金色の髪に水色の湖のような瞳、陶器のような肌、優しい心に一途な性質。それだけ恵まれた条件が揃っているのに、いつまでも独身だなんておかしいよ」
「いいえ、私が男性を嫌っているのは知っているでしょう。サム、貴方のように優しい人がゲイではなく私を愛しているのなら、考えてもいいわ」
彼は世間にもカミングアウトし、彼と同じブラウンの髪にブラウンの瞳の素敵な恋人、ジークがいる。私はジークに許可を得て、毎回、彼とパーティーに出かけるのだ。
「ダイアナ、少し痩せすぎだよ」
「少し痩せているくらいが丁度いいのよ」
「そうは思わないよ。君は過去の体型にとらわれすぎているように思える」
友人のいつもの忠告に居心地悪そうに腕をさすり、肩までの髪を揺らしながら、悲しげに首を横に振った。
「サム、私の将来の夢を知っているわね。庭のある家に一人で住み、犬や猫を飼うの」
「ダイアナ、ペットは可愛いものだけど、そんな幸せよりもっと別の幸せがあるよ」
「いいえ、そんなものは存在しないわ」
悲しそうな表情を浮かべて背伸びをし、百八十センチの身長の彼の頬に友情の証のキスをしてから、白いコートを着て退社し、テレビ局の向かいに出来た大きなスイーツランドのビルを敵のように、にらんでからバスに乗った。
自宅のフラットの最寄りのバス停に降りると、寒さのあまりに白いコートのポケットの中に手を突っ込んだ。吐く息が白い。もうすぐクリスマスで外はとても寒いわ。こういう寒い日は寂しくて誰かが自分の側にいて欲しくなる。枯れて舞い落ちた葉っぱの上を、音を立てて踏みながら懸命に否定した。いいえ、寂しくなんかない。気のせいよ。
冬の空は暗く、郊外の町を歩きながら、住宅の電気の明かりがことさら明るく見えることもなるべく考えないようにした。
住宅街を歩いていると、女性の叫び声が聞こえ、家族喧嘩をしている家もあると思い安堵した。今、この大きな家から叫び声がしたわ。やっぱり全ての家族が幸せに暮らしているなんてあり得ないのよ。
人の不幸に安堵した自分に嫌悪し、問題の家を何気なく見て凍りついた。
ここはりんごちゃんの家だわ!どうしたの?りんごちゃん。私のDJを聞いて、ダイエットをするまでもなく、早速、彼に別れを告げて、彼のプライドを傷つけたの?
男性は大抵、プライドが傷つくのを一番恐れるわ。即座にカバンの中から携帯電話を取り出して、電源を付けて家の前に立った。もう一回、りんごちゃんの声が聞こえたら、玄関のドアを開けて、りんごちゃんがDVとかに遭っていないかを確認する。
玄関の前に立ち、息を殺して耳を澄ませた。
りんごちゃんの抗議の声が聞こえると同時に私はコートのポケットの中で携帯電話を握りしめて玄関のドアを思い切り開けた。
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