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タマラのロマンス小説

青い炎

青い炎1

 
 真夏の夢29 青い炎2
 木曜日の陶芸教室がある夜は私、スピカ・ミルキーウェイにとって楽しみにしているひとときだ。

 あと、一時間後に陶芸教室が始まるので、急いでミルクコーヒー色の業務用の車をイギリス、バース郊外のC&W株式会社の駐車場に停めて退社の準備をした。

 カントリーハウスを模した建物の会社に背を向けて、夕日に染まる街並みを眺めながら、陶芸教室のことを考えた。黒い髪を手ですきながら、自分の車の駐車してあるスペースまで歩く時に、自分が陶芸教室に通い続けているという事実が面白くて笑ってしまった。

 陶芸教室と私は本来、最も結びつかないものだ。義父のヘンリーが生きていれば、陶芸教室に通うと言った時点で、私の熱を測りだすだろう。

 ヘンリーから譲り受けたクーペに乗り込み、道の途中でマクドナルドに寄り、オレンジジュースとチーズバーガーを食べた後、陶芸教室が開かれているストーンヘイジ近くの館の玄関に滑り込んだ。

 エリザべス調の大きな館の一角に陶芸教室があり、先生は二十三歳の私より、数歳年上のブレット・スティーブンスである。彼とは営業の仕事を通じて知り合った。

 私の勤めているC&W株式会社の業務内容はコーヒーのエスプレッソマシーンをリース販売することである。義務教育終了後、ずっとC&W株式会社の営業の仕事をしている。

 五か月前に、ある顧客のところへコーヒー豆を持って行くと、その家にたまたまブレットが遊びに来ていて、エスプレッソマシーンを宣伝すると、私が陶芸教室に通ってくれればエスプレッソマシーンをリースするという条件を出した。

 意外な交換条件だわ……。自分には芸術のセンスが皆無だと自覚していて、陶芸教室なんて問題外だと思っていたが、彼は親切にも三か月教室に通えばそれでいいと言ってくれたので、これも人付き合いだと思い承諾した。それが数カ月続いているなんて思いがけないことだわ。

 最も、陶芸作品を作る以外の目的で通っているのだけれど。

 今日も楽しみだわ。

 弾む気持ちを胸一杯に詰めて、陶芸教室の門をくぐった。

                       ☆  ☆  ☆

 早速、陶芸教室で懸命に土を練った。固い土を練ることだけは、だいぶん得意になったことを嬉しく感じると、、満足気に左右を見回した。

 ブレットが他の生徒の指導をしている。あともう少しで彼が自分の元に来ると思うと、適当に土を形成し始めた。
 
 更に周囲の観察を深めて、助手の先生のイザベラが他の生徒の指導をしているのを確認すると、心の中でガッツポーズをとった。

「スピカ、調子はどうだい?」

「ブレット、この花瓶にふっくらとした丸みを持たせたいのだけど、上手くいかなくって」

 大げさに落胆したふりをすると、彼は助けの神さながらに、目の前の土を巧みに形成していく。彼の器用な手は土と一体化していき、みるみるうちにふっくらとした丸みのある花瓶らしくなってきた。

「なんて素晴らしいの!まるで芸術の神が降臨したようだわ!」

 彼をあらゆる言葉で賞賛すると、いつものように花瓶の九割を彼に作ってもらった。よしよし、いい感じだわ。その時、私はイザベラの悲しげな視線を肌で感じ、そろそろ潮時だと悟った。

「ありがとう。ここまですればあとは一人で頑張れるわ」

 感謝の気持ちを表してにっこりと微笑むと、ふっくらとした花瓶を再び作るふりをした。

 彼を褒めて、彼に作品を作ってもらう陶芸教室の楽しさは、私に喜びをもたらした。

 いつも彼をどう褒めるかを考え、彼が私の会話力だけで、陶芸作品をどれぐらい作ってくれるのかが、自分の営業センス向上に繋がっていると感じた。

 ここは陶芸教室ではなく、営業の訓練場。魔女のように自分で手を動かさず、会話力を駆使して彼に私が作るより、センスの何倍もいい作品を作ってもらうのが楽しみで仕方がない。こんな面白いゲームが他にあるだろうか?

 最近、彼に陶芸作品を作ってもらうように誘導する難易度が高くなってきた。陶芸教室の助手のイザベラは彼に夢中ならしく、彼が私の作品を作っているのがばれると、彼女に妬ましげな視線を送られる。

 更に彼女を悲しい気持ちさせずに、自分の作品を作ってもらうというスリルを楽しみ、ますます陶芸教室にはまっていった。

 ……このまま彼女の視線を浴びなければ大丈夫だわ。気がつくと、三か月どころか、五か月も陶芸教室に通っている事が奇跡であると感じた。この陶芸教室に通う理由は彼のみならず、彼女もかなり面白いからだ。

 心の中では、いつもイザベラを応援していた。金髪に緑色の瞳をもつ繊細な印象の美女、イザベラは私のことを恋のライバルだと決めつけているようだが、それは誤解で、彼のことは単なる陶芸教室の先生だと思っている。

 私の心はいつもイザベラ誤解なのよと告げているが、残念なことに、私の心は一度も通じていない。彼女に対して申し訳ないという気持ちが多少なりともあるが、彼とプライベートな付き合いは一切ないので、そのうち誤解が解けるはずだと楽観的に考えていた。

 この花瓶が焼けたら、キッチンのテーブルに置こう。彼が九割作った芸術品の数々が、一人暮らしの我が家を彩っている。

 陶芸教室に誘ってくれた彼に日々、感謝していた。私は芸術的センスが全くなく、着ている服だって、自分の黒い髪に青色の瞳に合う色が今ひとつわからないので、つい黒い服同士を喪中のように合わせてしまう。

 今は半年前にヘンリーが亡くなって、本当に喪中なのだが、服装センスがない私に陶芸の才能は皆無だ。自分で陶芸作品を作るのは、全財産をどぶに捨てるくらいに無謀な行為である。

 花瓶の形が崩れないように、そっと指でなぞりながら満足そうに微笑むと、自分を背後から凄い形相でにらみつけている視線を肌で感じて寒気がした。

 戸惑いながら後ろを向くと、柔らかい金髪に金茶色の瞳の三十代くらいの男性が射抜くような視線を私に投げかけ、穏やかな陶芸教室に暗く濃い影を落としている。陶芸教室の後ろで堂々と立っているということは、誰かの付き添いでこの陶芸教室にいるのだろうけれど、だとしたら私にあの視線を投げる理由はどこにあるのだろう?

 彼の焼けつく視線に身震いをした。うなじの毛がちりちりと焼けるような強烈な視線は少しも衰えず、彼はずっと私を刺すように、睨み続けている。

 これは異端者審問なの?

 あらぬことを想像した。陶芸教室で陶芸をしていない罪で罰せられるの?否定するように首を横に振った。私は何も悪い事をしていない。ブレットが作った作品は自宅でありがたく使っていて、転売とかはしていない。

 そして、覚悟を決めた。


 人を不当ににらみつけるなんて非常識だわ。

 私をにらみつけるのならばにらみ返してやるのよ。

 燃えるような瞳で後ろを見返した。
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