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タマラのロマンス小説

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 アラビアンナイトに煌めいて 6 アラビアンナイトに煌めいて 8
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アラビアンナイトに煌めいて~高木裕里先生コミカライズ~

アラビアンナイトに煌めいて 7

 
 アラビアンナイトに煌めいて 6 アラビアンナイトに煌めいて 8
 ソファーに悠然と座っているラシードの姿自体がゴージャスで、雰囲気に呑まれそうになったが、素知らぬふりをして挨拶した。

「朝食は何を食べる?」

「厚切りのトーストとコーヒー、フルーツを頂くわ」

 大好きな厚切りトーストがテーブルの上に置いてあり、バターを塗って食べると、ここのトーストの方が格段に美味しいが、自宅と変わらない朝食メニューに安心したのか、今日は幸せな気持ちで過ごせるのではないかと思い直した。

「ずいぶん、美味しそうに食べるね」

「元気だもの。いけないかしら?」

「興味深いよ」

「シークともあろう方が庶民の朝食風景を視察ですか?」

「庶民?君が?堂々と僕に抵抗するのに?」

「今日は停戦しましょう。出勤前だから心穏やかで居たいの」

「仕事へ行く必要はない。君の商品はアル・ファールド国が全て買い取った。明細があるから確認してくれ」

 差し出された明細には細かく商品数と金額が余すことなく書かれている。その明細を破らなかったのは奇跡に等しかった。

「間違いないか?」

「間違いないか、ですって!間違いだらけに決まっているじゃない!心がない紙切れに何の意味があるの?あのミスター・ナジムでさえ、真剣に商品を吟味して購入していたわ。スイスシルクを気に入って貰って買って頂く。商品を売るってそういうことよ」

「数字を動かすのが僕の仕事の一つだ」

「そうね、シークだもの。中身の良さも関係なくメリットだけで買う。だけど、わたしはアラベラ・マーロンという個人よ!ロンドンのホテル街に店を構えている経営している一般人だわ」

 今度こそ捕まえられたくない。

 立ち上がり、抗議するかのように昨夜のベッドルームへ戻ろうとすると、ラシードがわたしの右の手首を思い切り掴んだ。

「待てよ。イベント会場で指輪を拾ったなんて嘘だ。昨夜、SPがイベント会場設置の防犯カメラで君の映っている姿を解析したが、床のものを拾う動作は一切、見られなかった。ましてや・・・。真実を話さないと、どうなるのか分かっているのか?」

「それで信じて貰えるの?」

「話の内容次第だが、このままだと君も処刑の対象になる。君は黒いアバーヤ姿の女性と接触した。それは誰だ?」

 ロフサーネ本人のような印象だったとは、わたしの口から言えなかった。予測でしかない上に、あれほどおびえている人を見たことがなく、婚約者も処罰しそうな勢いの口調に反論しにくい。

「分かりません」

「そいつと共謀して僕を騙そうとしたのではないのか?」

「落し物を届けたわたしがあなたを騙そうとした、ですって!作戦として成立しそうにない方法でね。あなたは実際、わたしがロフサーネと別人だと判断したし、ホテルのフロントで出会ったのも偶然にすぎないわ」

「事実が解明するまで、アル・ファールド国の法律に従って貰う」

「残念ながら、わたしはイギリス人です。自分の国の法律に従います」

 掴まれた右手を振り払おうともがいた瞬間、勢い余って身体が倒れそうになり、気が付くと、ラシードの腕の中にすっぽりと収まっていた。
 
「アル・ファールド国に居る限り、君は僕のものだ」

 とくんと、鼓動が跳ねた。君は僕のものだ、ですって!彼は権力を行使しているだけで、わたしを口説いているわけではない。軽く抱きしめられているだけで、どうしてこんなにも彼に反応するのだろう?

 瞳が重なると、そっと彼の腕を解いてベッドルームへ向かった。

 キングサイズのベッドを横切り、窓際の隅の大きな葉の観葉植物の横で座り込むと、商品については悔しいけれど、ラシードの決定に従うしかないという常識が働いた。

 何らかの陰謀に巻き込まれているのは確実ね。

 商品を買い取ってくれただけでも有難いと思わないといけないの?

 徹夜で一つ漏らさず明細を作成した、ラシードの部下に感謝しますというべき?

 買い取られた商品は捨てられるのかしら?

 頭が混乱する。

 諦めなさい。

 広い部屋の片隅にいようと、今のわたしは飼われた蚕のよう。

 ホテル最上階、プライベートルームのゴージャスな箱からは決して逃れられない。

 次第にジャスミンの強い芳香がわたしの鼻に届いた。

 白い花びらは数時間が経過しているのに、匂いを残したまま美しくベッドの上を飾っている。

 蚕から放たれた美しく白い糸のように。

 気がつくとベッドの横に自分の荷物があり、パスポートや現金がきちんとあった。荷物はわたしの入れた通りに入ってあるが、調べられたはずだと直感は告げている。

 帰国して、いつものように仕事がしたい。

 だけど、脱出する方法が解らない。
 
昨日の昼、愛する妻にプレゼントしようと顔をほころばせながらレジに並んだ、男性陣の姿を思い出した。

 ああゆうふうに買ってくれるのが理想よね。

 そういうお客様達に完売できればいいなって。

 こんな形で売れるなんて思いもよらなかった。

 スイスシルクを売る商人の娘はシークに抵抗出来ないの?

 落ち込んでいると鍵を開ける音がして、ラシードが入って来ると勘付いたわたしは力なくラシードを見上げた。
 
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