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タマラのロマンス小説

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海運王の娘~サン・テロス公国物語外伝1~

海運王の娘 11

 
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                  ***

 スーツケースに荷物を詰めながら、アレクシスと結婚するのは間違った選択だったのかと不安を覚えた。一週間で三度も朝刊の社交欄を独占するのはアレクシスが初めてではないかしら。

 “アレクシス・ステファノプロス、妻はアフロディテ・ラティス、愛人はダフネ・サマラス”

 思い出すたびに腹が立つ。アレクシスがダフネとパーティーへ行くことを知っていたけれど、どうしてあんな記事が載るの?でたらめな記事だと信じたいけれど、写真では親しげだったわ。

 わたしの寝室が薔薇で埋め尽くされていても許せない。

 冗談に対抗して送られてきた薔薇の花束。いや、花束とは控え目な表現だ。赤、ピンク、紫、白、クリーム色、黄色、オレンジ、何ダース送ってくるつもりなのか薔薇園状態になっている。

 喜んでいるのはわたしではなく、妹のマリア。お姉様、素敵ね、アレクシスがお兄様になるのは賛成よと無邪気に微笑んでいる。

 仕方がないから、マリアとヘリクレスの遊びに合わせて各色3本ずつ包み、マリアの部屋に飾るようメイドに頼んだ。

 ヘリクレス・リバノスは大嫌い。太陽のように微笑めばマリアも微笑み、雷のように怒ればとマリアを悲しませている。サン・テロス公国の王弟だけれど、マリアを振り回すことはやめて欲しい。何度もマリアを泣かせている。表向きはマリアに身分が違うから諦めなさいと言っているが、あの横柄な態度は気に入らないし、彼のことを愛しているマリアは辛い思いをしている。

 わたしとマリアの間には決して修復出来ない溝がある。

 お父様とヘリクレス・リバノス二人に最も愛されていることが羨ましいという理由では済まされないくらい。

 5歳の頃の古い記憶は、思い出すたびに胸がずきずきと痛む。

 ディナー用のドレスは清楚な印象の白、ラベンダー色のシルクシャツにオフホワイトのスラックスを身につける。ネックレスは彼もお気に入りのオリーブのネックレス。ネグリジェはセクシーな黒。

 香水はムスクの薔薇、ベッドルームの薔薇の香りと混じり、匂いが身体に染み込んでいる。

 着替えには白に青の膝丈まであるニットスカートとスパッツ。白いサンダル、コスメは淡いピンクを基調に整えた。下着は白のシルク。アパレル工場も扱っているラティス家の専属デザイナーのもの。身につけるものは全てラティス家の貿易が関連しているもので、どこで購入したかきちんと説明できる。

 娘は自社の物を身につけなければと、物心ついた時から教えられてきた。

 オリーブのネックレスとダンデライオンの制服は例外。

 絹の足のくるぶしまである靴下をはいて、レモン色のスニーカーをはく。

 金色の髪をバレッタで留めて、ポニーテールにしたところで内線電話が鳴ったので、急いで赤のスーツケースに持ち物を入れると、背後にアレクシスが居た。

「断りもなく、わたしの部屋に上がってくるなんて」

「このワンフロアは君のものだろう?ドアがないからノックもないし、君の顔が見たくて上がってきたよ」 

 絹の白いワイシャツとジーンズ、ラフな服装も似合っているのね。笑顔を向けられると怒りが収まりかけたけど、ダフネにも同じような態度を取っているかもしれないと思い直した。

「薔薇風呂は試してくれたかい?」

「いいえ、ベッドルームに飾ってあるわ」

「何万本の薔薇を送ればエンゲージメイトになるのかな?」

 薔薇はいらない、あなたが心からわたしを愛してくれたら、そう返事をしそうになり、動揺を抑えた。

 「結婚は仕方ないわね。ここまで世間を騒がせたら後には引けないし」

「・・・では、認めてくれるのだね」

「ええ、ステファノプロス家とラティス家の名誉に関わるもの」

 不可思議な表情を浮かべた彼。瞳を細めながら、おずおずとわたしを抱きしめた。

「約束しよう。僕は君を幸せにするよ」

 愛しているとは言わないのね。彼に抱きしめられると身体が熱くなる。わたしの全てが彼のものであるかのように、わたしの肌が彼の堅く引き締まった肌に吸いついて離れない。

 愛しているのだろうか?アレクシスを。

 もし、そうならば、わたしが愛していればそれでいいと思える日がくるだろうか?

「そろそろあなたの家へ行かないと」

「そうだった」

 赤いスーツケースを左手に、右手はわたしの腰にまわした彼。本当はダフネとの関係を聞きたいが、聞く勇気がない。
 
 何を考えているのか知ることが出来たらいいのに、彼を見つめることしか出来ないなんて。

 BMWの助手席を開けてくれた彼、わたしが乗ると後部座席にスーツケースを入れて、運転席に座る。

 エーゲ海の水面は太陽の光に反射してアクアブルーに輝いている。東へ走らせる車は山間部へ向かい、ブドウやオリーブの木々が並んでいる。銀色に輝くオリーブは高く伸びて、幹が太く、くり抜かれたように割れていて、その割れ目に入れそうな程だった。高い枝の実の収穫はどうしているのだろう?

 すでにここは彼の地所であり、運転に集中しているのか黙っている。

「オリーブの大きい幹の間に入りたいくらいに立派ね。樹齢何年かしら?」

「千年くらいかな」

「そうね、木登りしたらいけないかも。子供の頃、イグメニツァの別荘でよく木登りして叱られていたわ」

 無邪気なアフロディテも魅力的だ。アレクシスは柔らかな声と共にかすかに揺れる髪、バックミラー越しに映る表情を変える美しい顔に気を取られ、君は無防備過ぎると警告を与えたくなった。

 数日前、駐車場での冗談。あれ以来、香油をまとった艶めかしいアフロディテの姿を想像してしまう。ラティス家の駐車場に居るのに、場所を忘れて彼女を押し倒しそうになったし、欲望を抑えるために、一端、自宅へ戻ってシャワーを浴びた。

 想像していたアフロディテは実際のアフロディテとはかなり違う。

 気位が高く、気品があるのは想像通りだが、純粋、意地っ張り、優しさ、繊細さなどが混在している。

 取り済ました気取り屋のお嬢様だと思われているようだが全く違う。

 その上、飛びきりセクシーだなんて想像の範囲を超えていた。

 実家へ着く数キロ前に彼女に見せたいものがあり、観光地の集落で車を停めた。

「アレクシス様、こんにちは」

 店の人達が出てきてアレクシスに挨拶する。幾世紀も前からステファノプロス家の土地であるこの集落は、現在でもアレクシスに敬意を払っている。その横顔はまるで古代から城を守ってきた領主であり、戦士のよう。並んで歩くわたしもすれ違う人々に挨拶する。

「アフロディテ・ラティス、僕のエンゲージメイトです」

 人々は喜んでわたしを歓迎してくれる。まるで中世のプリンセスみたい。緊張しているわたしに彼はそっと答える。

「歓迎ムードのようだな。皆がこんなにも喜んでくれるとは思わなかった」

「あなたは領主であることを忘れてはならないわ」

 ギリシャ建築を模した古い建物の軒先にはワイン、オリーブオイル、チーズ、オリーブの木で作ったキッチン用品やタイル製品などの土産物が並んでいる。モミの木が風に揺れて、季節は初夏なのに、冬のクリスマスの時期を連想させる。

 石畳の上を彼と手を繋いで歩く。集落の側にある店へ入ると、銀色の光に包まれたかのように、銀細工が販売されていた。

「昔はここで銀を採掘し、輸出していた。もちろんジュエリーも作っていたよ」

 一番奥のショーケースにはわたしの身に付けているオリーブのネックレスが並んでいる。横には無限、永遠、起源を現すメアンドロス模様のネックレス、縦横同じ長さの十字であるギリシャ十字のネックレスの意味はプラス、斜めにするとかける(×)の意味がある。発展を意味するそれは国旗の模様でもあり、ギリシャ十字がペンダントトップのネックレスはペンダントトップをブローチにしたり、ラフな服装に合わせて革ひもに通したりと、工夫して身に付けられている。

 銀は加工しやすく歴史は古い。本来、母から子供に受け継がれる伝統のジュエリー。

「素敵ね」

「君のネックレスは間違いなくこの工房で作ったものだ」

「母のジュエリーはどこかにあるはずだけれど、ギリシャのジュエリーとは限らないし、5歳の時に亡くなったから分からないの。これは大切な友人から貰ったものよ」

「将来、赤ちゃんが出来たら君は母になる。そこから始めても構わない」

「ええ、そうね。触ることの出来る赤ちゃんは素敵ね。好きな銀細工をプレゼントするわ」

 その言葉に違和感があり、アレクシスはアフロディテを観察した。瞳は潤み、手はかすかに振るえている。”触ることが出来る赤ちゃん”どういう意味だろう?彼女は時折、自分の強い感情から逃げようとする。

 工房見学が終わり、好きな銀細工を買おうと申しでるも、彼女は丁重に断り、工房を出た。

「クレオが好きなものがいっぱいあるわ!お土産を買ってもいい?」

「構わないよ」

 オリーブオイルと蜂蜜、ハーブで作られたコスメを真剣な表情で眺めて、数分後には買い物袋いっぱいにして、顔をほころばせてレジから戻ってきた。

「ここの化粧品はアテネで見かけないわね」

「この地域で作られた限定品でここの店舗販売と通信販売のみだ。売れているよ」

「全部、クレオに買ったの。喜んでくれるかしら?」

「今度はマリアに何か買わないといけないな」

「・・・マリアはその、喜ばないと思うわ」

 アレクシスは買い物袋を持ってアフロディテの腰に手をまわした。思い出すとアフロディテの誕生日もマリアを見かけなかった。マリアとは折り合いが悪い?素直そうな妹という印象を受けたが。思い詰めた表情をしているので聞いてはいけないと判断しかけたが、聞かないと心に近づけない。観光地へ旅行した気分の彼女とランチをしたときは不覚にも当たり障りのない会話で済ませてしまった。

 実家へ向かうために助手席のドアを開けてアフロディテが車に乗った後、後部座席に買い物袋を入れて、運転を始めた。
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