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タマラのロマンス小説

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 海運王の花嫁、2013年別冊ハーモニィ8月号掲載、コミカライズです。 雨の日に振り向いて 2
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雨の日に振り向いて

雨の日に振り向いて 1

 
 海運王の花嫁、2013年別冊ハーモニィ8月号掲載、コミカライズです。 雨の日に振り向いて 2
せまい街で暮らす。

それは何て不自由でぎこちなく、もどかしいことなのだろう。

梅雨の灰色に煙った曇り空を仰ぎ見ながら、中尾理恵は息を吐いた。

左にある某、ファーストフード神戸店を無視して足早に通り過ぎる。

かつて待ち合わせに使った、この店で幾つの時間を費やしただろう。

彼を待つ時間。

 別れた後、つきあった時間と同じくらいの後悔をした。

 あの頃にはもう戻れない。

 さらに足を速めようとした途端、突然のスコールがそれを遮った。

 滝に打たれたかのような激しい雨を身体に浴びる。

 本能が知っている避難場所、某、ファーストフード店に飛び込むと、自動ドアのガラスに貼り付く雨粒の群れに、わたしの判断は間違っていないと決めた。

 天気予報は曇りだったはず。

 雨宿りするなんて想像もしなかった。

 鞄の中には折りたたみの傘が入っていたけれど、この雨では傘の骨が折れてしまう。

 濡れた水色のワンピースのポケットからハンカチを取り出し、髪の毛を拭きながら、ホットミルクティーを注文し、店の二階へ上がると、そこに彼が居た。

 嘘でしょう。

 あれから一度も会わなかったじゃない。

 半年前に別れてからは。

 平日の夕刻なのに、テーブルの上に見慣れたノートパソコンが開いているのに、スーツ姿の彼がここに居るだけではなく、視線をわたしに向けている。

 通り過ぎるのよ、わたし。

 気付かないふりをして。

 わたしの心は、わたしにそう命令している癖に身体が固まっている。

 口を開いた彼。

”久しぶり“とでも挨拶するつもり?

 聴きたくない言葉を幾つか想像した後、思いがけない言葉が耳に入った。

「夢みたいだ」

「どういうこと?」

 返事をしてどうするの?足が動く前に、彼はわたしの顔に視線を集めながら、テーブルの上のノートパソコンを閉じて鞄の中に入れ、自分のトレイが邪魔にならないよう、隅に動かしている。

 無言の合図。

 座れということでしょう。

 不本意ながらも魅入ってしまい、従うしか選択肢が残されていなかった。

 黒いつややかな瞳、ぎこちない彼特有の微笑み、あの時より少しだけ短い黒い髪。

 少しやせたようね、なんて考えはじめるわたしに待ったをかける。

 あの頃の記憶が打ちつける雨音と共に鮮明に蘇る。

 愛していた、彼、高島仁志を。

 スマートフォンの着信とメールは拒否したのに、彼そのものは拒否してないようだ。

「ミルクティー?いつもはコーヒーなのに、好みが変わった?」

 軽くうなずくと心の中で続けた。

 いいえ、コーヒーを注文すると、過去を思い出すでしょう。

 視線を強風で斜めに落ちる緑の葉に注ぎたいのに、吸い寄せられるように彼の引き締まった唇をみつめてしまう。

 今、キスすると、どんな風に感じるのかしら?

 そんなこと考えてはいけないはず。

平気なふりをして会話を始める。

「元気だったの?」

「ああ、特に病気はしなかったな」

「今日の雨、困るよね。急に降っちゃって」

「そうは思わないけど」

 月並みな会話。お湯に入れたティーパックを取りだすと、砂糖とミルクを入れてかき混ぜる。

一口飲むと、彼がずっとわたしをみつめていることに戸惑った。

「何か食べる?奢るよ」

「お腹空いてないから、いいよ」

 いつもの台詞ね。わたしが彼を待ち、遅れてきた彼が奢ろうとする。罪滅ぼしのような、儀式。居酒屋の雑多な音が好きではない彼との、洒落た店も閉まっている微妙な時間帯の待ち合わせ。

 仕事で遅れた彼は遅れすぎると、ここで食事しようとする。

 それは大きな問題ではないのだけれど。

「理恵、その、嬉しいよ」

「そう」

 嬉しいと告げられる前に、コーヒーから紅茶に好みが変わったと指摘されたことを少しだけ喜ぶ。

 紅茶を飲みながら斜めに降りしきる雨に問いかける。

 どうして、すぐに止んでくれないの?

 彼とは別れたはずだから。

 仕事が忙しい彼。穴埋めするようにされる提案は仕事で潰され、その都度、プレゼントのようなものが贈られる。

 本音、プレゼントのセンスがなかった。彼の主張では地方の美味しい食べ物らしい。

 むしろ、どこの店で買ったなど細かく話してくれる話が可愛い。

 三十二歳の彼と二十八歳のわたし。

 可愛いって失礼かも知れないけど、プレゼントがいきなり味噌カツのたれとかなので、予測がつかない。

 カツも必要でしょう、なんて言うと笑っていたけど。

 愛しい人。

 だけど、終わりにしてしまった。

「理恵、どうして電話とメール、着信拒否していた?そこまでしなくてもいいだろう」

「仁志さんは、もう、わたしに連絡しないと思ったわ」

「一方的に付き合えないから別れるってメールしてきた後に?僕の話も聞かずに。それほど嫌になった?」

「その前にも言ったじゃない。仁志さんは忙しい。平日の今、ここにいることが不思議なくらい」

「今日、ここにいるのは・・・・・・」

「仕事の都合でしょう」

「仕事を辞めればいいのか?」

「好きな仕事を取り上げるわけにいかないじゃない!」

 この不景気に成長を遂げている某、企業の規模の拡大、新たな店の立ち上げをしている。

 日本を制覇でもするつもり?というくらい全国に出張している。

 待ってでも会えて嬉しかったのは付き合い初めの頃。

 プレゼントも、お土産も可愛いというレベルを超えて豪華になってくると不安になってきた。

 これで許されるって思われている?

 わたしが欲しいものはプレゼントやお土産ではない。

 ずるずると付き合っていたし、彼をずっと待っていたけれど、我慢の限界がきた。

 わたしのわがままな理由。

 仕事とわたし、どちらを選ぶ?なんて、うっとうしい二者選択は見苦しい。

 忙しい人を待つこと、待つことが嫌なのではなく、むしろ・・・・・・。

「理恵」

 熱が籠っている声で呼ばないで、間違えそうになるから。

「仁志さん、言ったよね。わたしのことを悩みの一つに加えたくないって」

 仕事のことがいっぱい頭に詰まっていることくらい理解している。最も理解したくないことは別のこと。

「理恵が思っている意味じゃないけど」

「・・・・・・そうかしら」

「せめて、電話とメールは拒否しないで欲しい」

「友達にでもなるつもり?」

「無理だ。理恵と友達でいるのは」

 では、わたしは何?仕事の近況を聞く係?

 決定された言葉は聞きたくない。

 湿った雨の匂いのする空気を吸い込み、彼の瞳を探る。

 彼の会社とわたしの会社や家は近いのに再会したのはこの場所。

 さようならを告げれば、もう二度と会わないはず。

 雨が降っていたという理由で戻ってはいけなかった。

「理恵、やり直そう」

「やり直すって何を?あれから半年も経っているのよ。その気になればどうにでもなったじゃない」
 
「夜中に家を押しかければ良かったのか?両親と暮らしているだろう」

「仕事が早く終わる日もあるじゃない!ごめんなさい、わたし、言いすぎね」

「そんなことない。嬉しいよ。理恵は今でも少しは僕のことが好きなのか?」

 少し、じゃないから問題なのよ。

「今から僕の家へ来ないか?渡したいものもあるし」

「いつものお土産でしょう?」

「それもあるけど」

 断ろうとする前に両手を包み込むように握られた。

「お願いだから、来て欲しい」

 懇願するの?普段、誰かに何かを頼む人ではないのに。

「仕方がないわね」

「行こうか」

「待って、雨、まだ降っているじゃない」

「小雨になっている」

 熱帯地方のように激しい横殴りの雨がいつのまにか、緩やかな雨へと変わっている。赤い折りたたみ傘を開けた途端、彼がわたしの傘の中に入った。

「どうして?」

「傘を忘れて、理恵は持っていると思っていたよ」

「もう、困った人ね」

 傘を持つと主張し、彼はわたしから傘の柄を取って歩き始める。傘が小さくて彼の腕がわたしの頭に触れる。馴染みのある彼の感触と匂い。湿った雨の匂いと共に悔しいくらい、フェロモンの匂いがする。

 こんなの反則だわ。

 自信があって確信している。

 わたしの気持ちを。

 いつもの出張の話をしながら並んで歩いているけれど、赤い傘はわたしの肩を覆い、彼の肩ははみ出ている。

「パソコン、濡れるわよ」

 傘の端を彼の方へ寄せたけれど、彼はわたしの肩に雨が当たらないように戻す。

 そのさり気ない優しさはわたしを苦しめる。

 女性の方から別れを告げたのだから、承諾してくれてもいいじゃない。

 プライドが勝ったの?

 自分の方から別れを切り出さないと気が済まないとか。

 いいえ、やり直そうと提案してきたのよ。

 やり直すの?

 雨は静かに音を立てている。

 目の前にある景色は何もかもがぼやけているけれど、一番、ぼやけているのはわたしの心。

 どうして、再び出会ってしまったの?
 
 別れれば、時間が解決すると信じていたのに。

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